Bon Bon Voyage!旅のお菓子

見知らぬ旅人のように (like a stranger, like a traveller)

サバンナにゆれる草には、名前がない。 たしかに、そうだ。 じゃあ、あれは? whistling tree 口笛をふく木。 中が、からっぽになっていて、 風が吹くと、ヒューッと口笛をならす木。 ロンサムなのに、へこたれない奴。 うるさい美食家たちから、離れていよ…

『ドアのむこうに鹿がいる』

ワインズバーグ・オハイオの書いた シャーウッド・アンダーソンは 会社にいるときに、いきなり立ち上がって ドアから出ていって失踪する。 こんなコトバをつぶやいてから。 「長いあいだ川のなかを歩いてきたので、 足がぬれてしまった」 エドワード・ホッパ…

『ピーターパンの朝食』

一羽のウサギが、思い切って、柵をピョ ンと越えてしまう。そうすると、その後に 他のウサギが柵を越えるのは、ずっとや さしくなる。たしか、そんな仮説があった。 そういう、むこうみずなウサギの話だ。 ピーター・ビアードが生まれた年に、あ のアイザッ…

34『チャトウィンの黒い手帖』

メランコリックなタンタンといった風貌 のチャトウィンは、ついこのあいだまで、 あちこちを旅していた。パタゴニア、アフ リカ、中国、ロシア、インド、チベット、 ありとあらゆるところを。モグラみたいな 手触りの黒い手帖に、モンブランの万年筆 で、ひ…

 32『メキシコの青空』

なんだってメキシコくんだりまで、行っ たのかだって?ふうん、そういうことが 気になる訳?じゃあ、教えてあげよう。 からだの羽をぜんぶ毟られたような、情け ないことになったことがあってね。そうい うときって、だれがほんとうの友なのか、 分かるもの…

31『ベルヌ氏の夢の続き』

これからは、夢の中だけで旅行するよ。 そういったのは、11歳のジュール・ベルヌ。 もちろん、ママンとの約束は守られなかっ たけれど、ジュール・ベルヌって、とんで もない奴だったんだ。なにしろ、インドへ むかう帆船に見習い水夫としてもぐりこん で、…

29『クラコフのゆうぐれ』

どうして、捨ててしまったのか。振り返 ってみれば、泡立つ海、遠ざかる島。そん な気分だった。 友達になれたかもしれな い奴、歩いたかもしれない路地。手がかり は、失せてしまった。 そいつは、正確に4回あらわれた。まず、 坂の途中にいて、チェロを弾…

33『焚き火の贈り物』

そんなふうに丸まってちゃ、貝に なったみたいで、いけないよ。ナイ フでこじ開けられてしまう。イヌが 日なたボッコするみたいにしてるこ とだ。お腹を出して、まいったをす れば、なんてことはない。そんなふ うになったら、殴ったりはしない。 恋人を抱き…

27『シチリアのツバメ』

計ったように、ちょうど9時。外れかけたバンパーを紐でしばって、泥んこのランチアがやってきた。まっすぐ背をのばしたチコは、鉛の兵隊みたいだ。 夕べは、タキシードでおめかし。ハチミツをなめる熊のように、鍵盤の上におおいかぶさって、ぶっつづけで4時…